
今年も当院に関するいくつかの話題を申し述べます。
●新型コロナはなくなったわけではない
世界の平均寿命を1.6才短縮した新型コロナウイルス感染症は、高齢者、抗がん剤投与中、ステロイド療法・免疫療法治療中、呼吸器疾患、糖尿病などの重症化リスクの高い方にとっては今も決して油断ならない感染症として存続しています。ところが今や日本のワクチン接種率は15%まで低下し、海外の50%と離れてしまっています。若い世代が重症化しなくなり不要と思う人が増えた、費用の一部が自己負担になったことが主な理由と考えています。
高齢者や高リスク者の感染時の死亡率はインフルエンザの15倍にも達し、亡くなる方の97%が65才以上ですが、ワクチン接種により死亡の97%が回避できると報告されています。2類感染症から5類感染症に移行した令和5年5月から2年が経過し、今でこそ入院患者はいませんが、次の流行のとき有料のままでワクチン接種をする人は果たして増えるでしょうか。
自己負担はありますが、少なくとも高齢者と高リスクと思う方はやはりワクチン接種を機会があるごとにしておくのが賢明です。
●病院統合は進行中
当院がJCHO(地域医療機能推進機構)下関医療センターと統合し幡生へ新築移転する計画は変更ありません。新型コロナウイルス感染症の大流行に何年も邪魔をされながらもようやくここまで来たというところです。この二病院はともに施設が老朽化し手狭になっていますし、各々が担当する地域内での短距離移転ですからこれほど適切な病院統合はそうないでしょう。
全国で病院統合が進行していますが、なぜ統合が必要なのかを少し述べます。
日本の人口はご存知のように減少の一途を辿っています。未婚率の上昇、子育ては親自身が人間として成長し、楽しいことがたくさんあるのですが、子育てに対する経済的な負担、育児への不安などの理由から子育てをしたくないと思う傾向があるようです。有名な投資家イーロン・マスク氏が「これでは日本は無くなってしまうではないか」と言ったように、このままでは人口は少なくなる一方です。
人口減少が進むことにより、将来の病床必要量が既存病床数を下回ることで起こる諸問題の解決や、限りある資源を有効に活用しながら中長期的に持続可能な病院経営が求められています。
統合により機能を集約することで質の高い医療体制を確保することは、医師が働きたい病院になることにもつながります。
これが統合後の新病院が目指している姿です。下関市民のために救急医療をしっかりと担い、新型コロナウイルス感染症のような新興感染症・再興感染症に強い新病院になろうとしています。
●病院機能評価の受審再び
現在の病院機能評価の認定期間は令和3年6月3日~令和8年6月2日ですが、新型コロナウイルス感染症の影響で受審が延期されたため、次回の受審は5年を待たず令和7年8月に受審することになりました。常日頃から規則を遵守し業務を行っていますが、この機会に各種見直し、点検を行い、新基準に基づき準備をしてまいります。
●医療DX
DXとはデジタル・トランスフォーメーションの略語です。令和6年にWi-Fiを院内で利用できるようにしたことが含まれるかどうかわかりませんが、デジタル化や人工知能(AI)の導入は医療の世界でも進んできています。人手の足りないところを電子的に補うことができるなら、初期投資がまだまだ高額な状況ではあっても可能なところからはじめなければなりません。
当院でも、令和6年11月には大腸内視鏡検査で観察中のモニターに異常所見を自動で示すAIを搭載した内視鏡画像診断プログラム エンドブレイン-アイ(EndoBRAIN-EYE)を導入、また、ロボティック・プロセス・オートメーション (RPA)システムを用いて、CTなどの画像診断結果・病理診断結果を未確認の医師に対して確認を促すメールを自動配信する仕組みを当院のデータ分析班が独自に開発して活用中です。
デジタル技術だけに頼るのではなく、悪性所見は読影した診断医から主治医への電話連絡を必須とし、その後どうなったかを医療安全対策室が追跡し毎月報告しています。ときに報道されるような、画像診断結果・病理診断結果の所見を見落として手遅れになってしまうようなことを未然に防ぐようにしています。どうぞ安心して検査を受けてください。
●医師の働き方改革と病院経営の困難さ
令和6年4月から医師の働き方改革の新制度が施行されました。A水準医療機関である当院では時間外労働時間は月80時間が上限となります。つまり、コンパクトに働いて勤務時間内に仕事を終えるようにできる限り努めないといけません。しかし、臨床業務は長時間に及ぶ手術、カテーテル治療、急患対応など、どうしても時間外労働になってしまうことが多々あります。
医師の健康を守る必要もわかりますし、医療安全を確保する必要もわかりますが、医師不足に加え、医師確保に必要な財源が今以上に増えるわけではないというのが現状です。また、どの職種も手一杯で仕事をしている状況でタスクシフトをせよと言われても、タスクを受け取る人手が新たに必要なのに、人員を確保する人件費のために必要な診療報酬は増えていません。つまり病院は収入を抑制されたまま、物価の高騰、政府の賃金引上げ要請、光熱費の上昇などで支出だけが増える一方で、令和6年度は8割以上の病院がこれまでにないほどの赤字決算になったそうです。
医療従事者の負担軽減と労働時間短縮に向けた取り組みとして、患者さまやご家族の方への病状説明等は、医師が必要と認めた場合を除き、平日の診療時間内とさせていただきます。これには皆さまのご協力が必要です。「仕事が終わってから行くので病状の説明をして欲しい」ではなく、診療時間内対応にご理解とご協力をよろしくお願いいたします。
●消化器内科医の減少
医師の派遣を受けている大学医局の事情で、令和7年度は常勤の消化器内科医師1名体制となっています。診療体制は変わりますがこれまでと同様に消化器の幅広い疾患に対応するため、消化器内科、消化器外科がそれぞれの専門性を活かし診療にあたれるように消化器病センターを開設しました。
どうか安心して消化器病センターへご紹介ください。
消化器内科医の確保には鋭意努めております。今後ともよろしくお願いいたします。